こんにちは、ジェネレーションBのTAKUです。
ラジオやクラブ、あるいはロック定番のプレイリストで、プライマル・スクリームの「ロックス(Rocks)」を耳にして、あの突き抜けたブギーのリフに心を掴まれた人は多いのではないでしょうか。
ところが、いざ音源を探してみると『Rocks』という名前のオリジナル・アルバムは見当たらず、さらに同じ曲名でも録音やミックスが違う複数の盤が出てきて、どれから聴けばいいのか迷ってしまいますよね。
この記事では、「ロックス」が収録された本来のアルバムを特定したうえで、1994年の発売盤と後年発掘された別音源盤の決定的な違い、そして歌い手の耳で聴いた楽曲の急所から後悔しない盤の選び方まで、順番にお話ししていきます。
この記事でわかること
1. 「ロックス」収録アルバムの結論
「ロックス」という曲名があまりに有名なため、同名のアルバムが存在すると思われがちですが、まずは探すべき作品の名前と位置づけをはっきりさせておきましょう。
1-1. 原典は1994年の4作目

プライマル・スクリームの代表曲「ロックス」が収録されているオリジナル・アルバムは、1994年3月28日に英国のクリエイション・レコーズから発売された通算4作目『Give Out But Don’t Give Up(ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ)』です。
アルバム本編の先行シングルとして1994年2月28日にリリースされたこの曲は、全英シングルチャートで最高7位を記録し、バンド史上最大のヒット・シングルとなりました。
続くアルバム本体も全英チャート初登場2位を獲得しており、名実ともに1990年代中盤の彼らを象徴する看板曲として君臨しています。
アルバムの2曲目に配置されたこの楽曲は、1曲目の「Jailbird」と並んで作品全体の推進力を担う核そのものです。
もしあなたが「あのノリのいいロックンロールをアルバムの流れごと味わいたい」と考えているなら、最初に手に取るべきは間違いなくこの1994年盤『Give Out But Don’t Give Up』になります。
1-2. 3作目と混同される理由
ロックを聴き始めたばかりの人や、90年代のUKロックを後から振り返る人のあいだで、よく起きる勘違いが一つあります。
それは、1991年の歴史的出世作である3作目『Screamadelica(スクリーマデリカ)』の中に「ロックス」が入っていると思い込んでしまうケースです。
確かに『Screamadelica』はプライマル・スクリームの代名詞として最も名前が挙がる名盤ですが、あちらはアシッド・ハウスやダブ、ゴスペルをロックと融合させた作品であり、「ロックス」は収録されていません。
また、エアロスミスの1976年の名盤『Rocks』など、ロック史上に同名の有名アルバムが複数存在することも、「ロックス=アルバム名」という記憶違いを招きやすい一因でしょう。
『Screamadelica』がクラブ・カルチャーとロックの幸福な結婚だとすれば、次作『Give Out But Don’t Give Up』は米国南部のR&Bやブギー、泥臭いロックンロールへ真っ向から飛び込んだ作品です。
同じバンドでありながら作風が180度近く異なるため、ジャケットに写る赤い服の女性の写真(写真家ウィリアム・エグルストンによる作品『Troubled Waters』からのトリミング)を目印にして探すと間違いがありません。
1-3. ベスト盤やシングル集との違い
現在、CDショップやサブスクリプション・サービスで「Rocks」を検索すると、『Give Out But Don’t Give Up』以外にもいくつかのアルバムがヒットします。
代表的なものが、2003年発売のベスト盤『Dirty Hits』、2019年発売のシングル集『Maximum Rock ‘n’ Roll: The Singles』、そして2018年に発売された発掘盤『Give Out But Don’t Give Up: The Original Memphis Recordings』です。
さらに、2002年のZepp Tokyo公演を収めた2003年のライブ盤『Live in Japan』にも、会場の熱気をそのまま封じ込めた「Rocks」が収録されています。
| 収録作品名 | 発売年 | 作品の種類 | 「Rocks」の音源仕様 | こんな人に向く |
|---|---|---|---|---|
| 『Give Out But Don’t Give Up』 | 1994年 | 4thオリジナル盤 | LA再構築版(3分37秒) | ストーンズ直系の勢いと当時の完成形を味わいたい人 |
| 『The Original Memphis Recordings』 | 2018年 | 別ミックス発掘盤 | メンフィス録音版(3分51秒) | 生々しい演奏の呼吸や本来の南部録音を知りたい人 |
| 『Dirty Hits』 | 2003年 | ベスト盤(1CD/2CD) | 1994年盤と同系音源 | 電子音時代も含む代表曲を一気に通して聴きたい人 |
| 『Maximum Rock ‘n’ Roll: The Singles』 | 2019年 | シングル集(2CD) | 2019年リマスター(3分37秒) | キャリア全体のシングル曲を年代順に追いたい人 |
| 『Live in Japan』 | 2003年 | ライブ盤 | 2002年東京公演ライブ音源 | スタジオ盤より速く攻撃的な現場の体感を求める人 |
ベスト盤の『Dirty Hits』や『Maximum Rock ‘n’ Roll』でも1994年版の「ロックス」自体は聴けますが、前後がエレクトロ期の曲やサイケデリック期の曲に挟まれるため、ブギー・ロックとしての空気感は途中で途切れてしまいます。
私は、1曲目「Jailbird」のギターリフが鳴り響き、そのまま息つく暇もなく2曲目「Rocks」へなだれ込むアルバム冒頭の7分間こそ、このバンドのロックンロール体験の白眉だと感じています。
ここまで読んで「結局、最初にどれを聴けばいい?」と迷うなら、私は迷わず1994年オリジナル盤『Give Out But Don’t Give Up』から入ることを勧めます。まずサブスクで1曲目「Jailbird」から2曲目「Rocks」への流れを体感し、この泥臭いグルーヴが自分の耳に馴染むか確かめてみてください。
【確認候補①:最初に聴くべき原典アルバム】
ロックンロールとソウルが交差する、1994年の名盤
Primal Scream
Give Out But Don’t Give Up
プライマル・スクリームが1994年に発表したサード・アルバム。 「Rocks」「Jailbird」などを収録したオリジナル盤のCD。
※価格・在庫は変動します。最新情報は各販売ページでご確認ください。
まずサブスクで1曲目「Jailbird」から2曲目「Rocks」への流れを体感し、この泥臭いグルーヴが自分の耳に馴染むか確かめてみてください。
※価格・在庫・配信状況は記事執筆時点の情報です。ご利用・ご購入前に各サービスや販売ページで最新情報をご確認ください。

2. 1994年盤と2018年盤の音の違い
『Give Out But Don’t Give Up』には、1994年に世に出た公式盤と、24年後の2018年に世に出た『The Original Memphis Recordings』という、似て非なる2つの顔が存在します。
2-1. メンフィス録音とLA再構築の経緯

なぜ同じアルバムに2つの異なるバージョンが存在するのか、その背景には1993年から1994年にかけての制作現場のドラマがあります。
1993年5月から7月にかけて、バンドは米国テネシー州メンフィスの名門アーデント・スタジオへ乗り込みました。
プロデューサーに迎えられたのは、アレサ・フランクリンやオーティス・レディング、オールマン・ブラザーズ・バンドを手がけた伝説の巨匠トム・ダウドです。
さらにリズム隊として、マッスル・ショールズ・リズム・セクションのロジャー・ホーキンス(ドラムス)とデヴィッド・フッド(ベース)、そしてホーン隊にはザ・メンフィス・ホーンズ(ウェイン・ジャクソン、アンドリュー・ラヴ)という、南部ソウルの生ける伝説たちが参加しました。
ところが、トム・ダウドが仕上げたミックスを聴いたクリエイション・レコーズの創設者アラン・マッギーやバンド側は、「音が落ち着きすぎていて、ロック・バンドとしての攻撃性やシングル向きの派手さが足りない」と判断します。
そこでバンドはロサンゼルスのオーシャン・ウェイ・スタジオへ移動し、ブラック・クロウズやリック・ルービン関連作で知られるプロデューサー、ジョージ・ドラキュリアスとエンジニアのデヴィッド・ビアンコを起用しました。
このLAセッションで、「Rocks」「Jailbird」「(I’m Gonna) Cry Myself Blind」の3曲はドラムやベース、ギターの差し替え・重ね録りと大胆なリミックスが施され、さらにデトロイトでジョージ・クリントンを迎えたファンク曲などが追加されて、1994年3月発売の最終形が完成したのです。
長らく行方不明になっていたトム・ダウド制作のメンフィス録音テープが、ギタリストのアンドリュー・イネスの自宅地下室から偶然発見され、2018年10月に『Give Out But Don’t Give Up: The Original Memphis Recordings』として公式発売されたことで、私たちは24年越しに本来の姿を聴けるようになりました。
2-2. 2つの「ロックス」の聴き比べ

ここで誤解してほしくないのは、2018年盤は「1994年盤のリマスター」ではなく、録音テイクとミックス自体が異なる別バージョン(リミックスおよび別テイク集)だという点です。
実際に「Rocks」の1994年盤(ドラキュリアス&ビアンコ版・3分37秒)と2018年メンフィス盤(トム・ダウド版・3分51秒)を並べて聴き比べると、驚くほど音の重心が違います。
| 比較項目 | 1994年オリジナル盤(LA再構築版) | 2018年メンフィス録音盤(トム・ダウド版) |
|---|---|---|
| プロデュース/ミックス | ジョージ・ドラキュリアス、デヴィッド・ビアンコ | トム・ダウド(エンジニア:ジェフ・パウエル) |
| 演奏時間 | 3分37秒 | 3分51秒 |
| リズム隊の質感 | スネアが前に張り出し、前のめりで攻撃的なロック・ビート | ロジャー・ホーキンスとデヴィッド・フッドによる懐の深いポケット感 |
| ギターとピアノの配置 | 歪んだギターが左右から壁のように迫り、音圧が高い | ギターの分離が良く、ピアノとホーンの隙間が見える立体的な配置 |
| ボーカルの聴こえ方 | 中域を押し出し、楽器の塊と競り合うように粗く歪む | 部屋の空気感ごと録られ、息遣いや声のニュアンスが自然に残る |
1994年盤の「Rocks」は、イントロのギターが鳴った瞬間からコンプレッションが強く効いており、トニー・ブロックやドラキュリアスらが関わったLA組のドラムが、まるで1970年代前半のフェイセズやローリング・ストーンズのライブ盤のように暴れ回ります。
対して2018年メンフィス盤の「Rocks」は、テンポがほんのわずか落ち着いており、ドラムのロジャー・ホーキンスが叩き出すバックビートの「タメ」が絶妙です。
1994年盤ではギターの音圧に埋もれがちだったピアノの転がるようなフレーズや、メンフィス・ホーンズの温かいブラスの膨らみが手に取るように分かり、演奏時間が14秒長い分、アウトロの掛け合いまでゆったりと余韻を楽しめます。
◆ TAKUのひとこと
2-3. アルバム全体の曲順と構成の差
2つの盤の違いは「Rocks」1曲にとどまらず、アルバム全体の収録曲数と曲順の設計にまで及んでいます。
1994年盤は全12曲(約59分)で構成されており、中盤に「Funky Jam」や、ジョージ・クリントンとデニース・ジョンソンがリード・ボーカルを取る表題曲「Give Out But Don’t Give Up」といった、Pファンク色の強いナンバーが組み込まれています。
一方、2018年メンフィス盤のDisc 1(トム・ダウド・アルバム・ミックス)は全9曲(約45分)へと引き締められています。
メンフィス盤では「Funky Jam」や「Struttin’」、ジョージ・クリントン参加の表題曲、そして「I’ll Be There for You」が本編から外れている代わりに、1994年盤ではシングルのB面に回されていたゴスペル調の大作「Jesus」(6分41秒)が8曲目に据えられています。
つまり、1994年盤はロックンロールとPファンク、バラードを雑多に詰め込んだ90年代的なミクスチャー感覚があるのに対し、2018年盤は純粋なサザン・ソウル/カントリー・ブルース作品として一本筋が通っているのです。
3. 歌い手の耳で聴く「ロックス」と全曲評
ここからは、私自身がバンドでボーカルを歌ってきた視点も交えながら、「Rocks」という楽曲がなぜこれほど聴き手の身体を揺らすのか、その発声と演奏の仕掛け、そしてアルバム全12曲の聴きどころを掘り下げます。
3-1. ボビーの声の摩擦と語尾の処理

ボビー・ギレスピーというボーカリストは、『Screamadelica』まではどこか少年のような儚さと、息を多く含んだウィスパー寄りの発声が持ち味でした。
しかし「Rocks」での彼は、別人のように喉の奥をギュッと絞り、声帯にザラついた摩擦音(フライに近い歪み)を乗せて歌い出します。
ただ、もともとの声質は決して太いバリトンではないため、力で押し切るのではなく、言葉の頭の子音を打楽器のように強くマイクへぶつけ、語尾の母音を伸ばさずにスパッと切るフレージングでロックンロールの鋭さを作っているのです。
特に注目してほしいのは、AメロからBメロへ駆け上がる際の息を吸う位置の浅さと、拍のほんの少し後ろに言葉を引っ掛けるリズム感です。
そしてサビに入った瞬間、ボビー一人の細いシャウトに、メンフィス出身の女性シンガーであるジャッキー・ジョンソンとスーザン・マーシャルの2人による、分厚く開いた母音のゴスペル・コーラスが重なります。
ボビーの「乾いて尖った声」と、女性コーラス隊の「太く包容力のある声」がぶつかり合うことで、単なるミック・ジャガーやロッド・スチュワートの模倣では終わらない、プライマル・スクリーム独自の華やかさが生まれているのです。
3-2. 2本のギターと南部ホーンの絡み
演奏面で「Rocks」の骨格を決定づけているのは、ロバート・“スロブ”・ヤング(2014年没)とアンドリュー・イネスの2人によるギター・コンビネーションです。
イントロの最初の1音から飛び出すリフは、キース・リチャーズ直系のオープン・チューニング感覚を取り入れたチャック・ベリー型のブギーですが、2本のギターがかっちりユニゾンするのではなく、絶妙にルーズなズレを残して絡み合います。
そこへ重なるのが、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの鍵盤奏者ベンモント・テンチやマーティン・ダフィ(2022年没)らによる、イアン・スチュワートばりの転がるピアノ(ホンキートンク調の連打)です。
ギターの歪みが中域を埋め尽くすなかで、高域で跳ねるピアノと、サビ前で一気に視界を広げるメンフィス・ホーンズのブラス・セクションが加わることで、3分37秒という短い尺の中にパーティーのような高揚感が凝縮されています。
3-3. 前半6曲の役割と聴きどころ
『Give Out But Don’t Give Up』(1994年盤・全12曲)は、「Rocks」1曲だけのアルバムなのかというと、決してそうではありません。
前半の6曲だけでも、ハードなブギーから涙腺を刺激するサザン・バラード、アシッド・ジャズ風のファンクまで、驚くほど表情が変化します。
1曲目「Jailbird」(3分46秒)は、ロバート・ヤングの粘っこいスライド・ギターとハンドクラップから始まるオープニング曲で、中盤のハーモニカとギターの疾走パートから、隙間なく2曲目「Rocks」へつなぐ起爆剤の役割を果たしています。
2曲目「Rocks」(3分37秒)でアルバムのテンションを最高潮まで引き上げたあと、空気を一変させるのが3曲目「(I’m Gonna) Cry Myself Blind」(4分30秒)です。
この3曲目では、ボビーが喉の力みを抜いて胸声の柔らかい響きで歌い上げ、ロッド・スチュワートやフェイセズのバラードを思わせる切ないメロディに、女性コーラスが寄り添います。
続く4曲目「Funky Jam」(5分24秒)は、マッスル・ショールズで生まれたうねるようなベースラインを軸に、前作のクラブ感覚と生演奏のファンクを橋渡しする1曲です。
5曲目「Big Jet Plane」(4分15秒)は、アコースティック・ギターの乾いたストロークと流れるようなオルガンが心地よい、アメリカ南部のハイウェイを走るようなミディアム・ナンバーに仕上がっています。
そして前半を締めくくる6曲目「Free」(5分30秒)では、重心の低いブルース・ロックのリフの上で、ボビーが再び声を荒らげ、後半の即興的なジャム・セッションへと熱量を高めていきます。
3-4. 後半6曲の深みと隠しトラック
アルバム後半の7曲目から12曲目にかけては、単なるストーンズ風のロックンロールという枠を超え、よりディープなソウルとファンク、そして内省的なバラードが並びます。
7曲目「Call on Me」(3分50秒)は、小気味よいカッティング・ギターとホーンが引っ張る、オーティス・レディング直系のストレートなR&Bナンバーです。
一転して8曲目「Struttin’」(8分29秒)は、アルバム最長のインストゥルメンタル主体のジャム・トラックで、メロウなエレピとむせび泣くギターが夜の空気をじっくりと描き出します。
9曲目「Sad and Blue」(3分27秒)は、カントリー・ソウル調の優しいワルツに近い揺れを持ち、失意の底にある心情をボビーが飾り気のない素直な声で吐露する隠れた名曲です。
10曲目「Give Out But Don’t Give Up」(6分16秒)では、Pファンクの総帥ジョージ・クリントンと、バンドの盟友である歌姫デニース・ジョンソン(2020年没)がリード・ボーカルとして全面参加し、アンプ・フィドラー(2023年没)の鍵盤とともに濃厚なファンク空間を作り上げています。
11曲目「I’ll Be There for You」(6分34秒)でゴスペル的な救済感を伴う壮大なバラードを聴かせたあと、最後に現れるのが12曲目「Everybody Needs Somebody」(5分22秒)です。
この12曲目は、1994年の初出CD(UK盤 CRECD 146/日本盤 ESCA-5944)や2枚組LP(CRELP 146)の背面ジャケットには曲名が印刷されていなかったシークレット・トラックであり、壊れそうな声で愛の必要性を訴える終幕として深い余韻を残します。
4. 1994年の時代背景と現在の再評価

『Give Out But Don’t Give Up』は、発売から30年以上が経過した現在と1994年当時とで、批評家やリスナーからの見え方が大きく変わった作品でもあります。
4-1. 電子音から南部ロックへ振れた背景
1991年の『Screamadelica』でアシッド・ハウスとロックを融合させ、時代 最先端の寵児となった彼らが、なぜ次作で1970年代風のサザン・ロックやR&Bへ急旋回したのでしょうか。
その理由は、当時のバンドを取り巻く過酷なツアー生活と、英国のクラブ・シーンの変質にありました。
80年代末のセカンド・サマー・オブ・ラヴの祝祭感が過ぎ去り、ドラッグによる疲弊や商業化されたレイヴ・カルチャーに違和感を覚えたボビーやメンバーたちは、ツアーバスの中で自分たちの原体験であるローリング・ストーンズ(特に『Exile on Main St.』や『Sticky Fingers』)、フェイセズ、そしてオーティス・レディングやスタックス系のソウル・レコードをむさぼるように聴き直していたのです。
もともとプライマル・スクリームは、テクノロジーを使うことがあっても、根っこは60年代・70年代のレコードを愛するロックンロール・バンドでした。
だから彼らにとってメンフィスへの渡航は、単なるレトロ趣味やコスプレではなく、バンドが空中分解しかねない危機のなかで「生身の人間が部屋で向き合って鳴らすグルーヴ」を取り戻すための必然だったのです。
4-2. ブリットポップ前夜の賛否と商業成績
しかし、このアルバムが発売された1994年3月末の英国音楽シーンは、まさに歴史の転換点にありました。
同じクリエイション・レコーズの後輩であるオアシスがデビュー・シングル「Supersonic」を放つのが1994年4月11日、ブラーが『Parklife』を発売するのが同年4月25日です。
つまり、英国中が「ブリットポップ」という自国のギター・ポップ復権に熱狂し始めたまさにその瞬間に、プライマル・スクリームは星条旗や南部写真を掲げたコテコテのアメリカン・ルーツ・ロックを突きつけたわけです。
結果として、「Rocks」とアルバム自体は全英チャートで高い売上を記録し、1994年のマーキュリー・プライズにもノミネートされましたが、当時のイギリスの音楽メディアからは「『Screamadelica』の革新性を捨てて、古典ロックの焼き直しに後退した」という厳しい批判も浴びました。
最先端のダンス・ロックを期待していたリスナーほど戸惑いが大きく、発売当時は評価が真っ二つに割れたのです。
4-3. 自伝と2026年再発で変わる評価
それから長い歳月が経ち、「当時の流行とどれだけズレていたか」という同時代的なバイアスが消えたことで、本作の評価は劇的に好転しました。
まず決定打となったのが、前述した2018年の『The Original Memphis Recordings』のリリースであり、これにより当時の彼らがいかに誠実に米国南部音楽の巨匠たちと渡り合っていたかが証明されました。
さらに2022年7月には、ボビー・ギレスピーが自身の生い立ちから労働者階級の誇り、そしてパンクやルーツ音楽への深い愛着を綴った自伝『Tenement Kid(テネメント・キッド)』(イースト・プレス刊・萩原麻理訳)の日本語版が刊行され、彼の音楽観の根底にあるソウルやR&Bへの敬意が改めて広く理解されるようになりました。
バンドは2024年11月にもデヴィッド・ホルムズをプロデューサーに迎えた8年ぶりの新作『Come Ahead』を発表して健在ぶりを示し、2026年には『Screamadelica』の国内初アナログ化(ソニー・ミュージック、規格番号:SIJP-1182/3、2026年7月29日発売)や、『Vanishing Point』『XTRMNTR』の2026年リマスター音源配信、さらには『The Original Memphis Recordings』の2026年限定カラー・ヴァイナル(140gレッド・ヴァイナル)流通など、過去カタログ全体への再注目が加速しています。
いま聴き返すと、打ち込みやシンセの音色が時代を感じさせやすい90年代作品のなかにあって、生楽器と肉声だけで録られた『Give Out But Don’t Give Up』は、むしろ最も風化せずに鳴り響く1枚として愛されているのです。
5. 配信状況と買うべきCD・LPの選び方
実際に「Rocks」と収録アルバムを聴くにあたって、現在のサブスクリプション配信の状況と、手元に残すためのCD・アナログ盤の具体的な選び方をまとめました。

5-1. サブスク配信状況と検索の注意点
記事執筆時点(2026年11月現在)において、プライマル・スクリームの『Give Out But Don’t Give Up』は、主要な音楽サブスクリプション・サービスで問題なく配信されています。
しかも嬉しいことに、1994年オリジナル盤(またはボーナス曲を含む『Expanded Edition』)と、2018年の『Give Out But Don’t Give Up: The Original Memphis Recordings』の両方が、同じアーティスト・ページ内に並んでいます。
| 配信サービス名 | 1994年盤(Expanded含む) | 2018年メンフィス録音盤 | 音質・特徴と使い分け |
|---|---|---|---|
| Apple Music | 配信あり | 配信あり(2枚組全24曲) | ロスレス対応。2つの版の低域の差やホーンの定位を比較しやすい |
| Amazon Music Unlimited | 配信あり | 配信あり(2枚組全24曲) | HD/Ultra HD対応。ボビーの声のざらつきや部屋の残響まで明瞭 |
| Spotify | 配信あり | 配信あり(2枚組全24曲) | 関連プレイリストが豊富で、90年代UKロックとの聴き比べに便利 |
| YouTube Music | 配信あり | 配信あり(2枚組全24曲) | 公式MVやグラストンベリー等のライブ映像も同じ導線で確認可能 |
サブスクで検索する際の注意点は、曲名「Rocks」だけで再生すると、シングル集『Maximum Rock ‘n’ Roll』やベスト盤のトラックが単独で再生されやすいことです。
ぜひアーティスト・ページの「アルバム」一覧から『Give Out But Don’t Give Up』を開き、1994年盤の2曲目(3分37秒)と、2018年メンフィス盤のDisc 1・2曲目(3分51秒)を交互に再生して、ドラムのスネアの位置とピアノの聴こえ方の違いを体験してみてください。
5-2. 国内盤CDと拡大盤・発掘盤の比較
サブスクで気に入って「CDで手元に置きたい」となった場合、国内盤・輸入盤を含めて主に3つの選択肢があります。
| エディション名 | 発売年・主な規格番号 | 仕様・収録内容 | おすすめ度と選ぶ基準 |
|---|---|---|---|
| 1994年国内初出CD | 1994年4月8日発売 ESCA-5944(エピック) |
1CD(全12曲※表記は11曲)。当時の解説・対訳付き | 中古で安価に入手しやすい定番。まず本編だけ聴きたい人に最適 |
| 2009年国内2CD拡大盤 | 2009年1月14日発売 SICP-1893〜4(ソニー) |
2CD紙ジャケット仕様。内藤哲也リマスター+B面・ライブ・リミックス計25曲 | 1994年期の全貌(ジミー・ミラーのリミックスや94年ライブ含む)を追いたい人向け |
| 2018年メンフィス録音盤 | 2018年10月10日発売 SICP-5837〜8(ソニー/輸入盤:19075815742) |
2CD(初回紙ジャケ)。Disc 1:トム・ダウド・ミックス9曲/Disc 2:未発表ジャム等15曲 | 制作過程のリハーサル音源やメンフィス本来の音像を深く味わいたい人向け |
まず中古ショップやネット通販で最も手頃に買えるのは、1994年発売の国内初出盤(規格番号:ESCA-5944)やUKオリジナルCD(規格番号:CRECD 146)です。
1点だけ覚えておいてほしいのは、ESCA-5944などの1994年初期盤は、帯や裏ジャケットの曲目リストが「11曲」までしか記載されていなくても不良品ではなく、ディスクの12トラック目にちゃんと「Everybody Needs Somebody」が収録されているという点です。
一方、もし在庫や状態の良い中古が見つかるなら、2009年に完全生産限定盤として出た日本独自企画の2枚組紙ジャケット仕様(規格番号:SICP-1893〜4)は非常に満足度が高い名企画です。
ただしSICP-1893〜4は現在プレミア価格になりやすいため、無理に高値で追うよりも、手に入りやすい1994年通常盤CDと、2018年の『The Original Memphis Recordings』(国内盤2CD:SICP-5837〜8、または輸入盤2CD:19075815742)の2つを揃えるほうが、予算を抑えつつ音楽的な発見が何倍も広がります。
5-3. アナログ盤の仕様と中古の注意点
このアルバムは元々1970年代のロックやソウルのアナログ・レコードへの憧憬から作られた作品だけに、LPレコードで針を落とす楽しみが格別な1枚でもあります。
1994年のオリジナル盤と2018年のメンフィス録音盤のどちらも、収録時間が長いため2枚組LP(または3枚組LP)としてカッティングされており、1枚もののLPに無理やり詰め込んだ盤よりも溝の間隔に余裕があって、低域のふくよかさがしっかり確保されています。
1994年当時のUKオリジナル2枚組LP(Creation Records、規格番号:CRELP 146)は、名カッティング・エンジニアのジョージ・“ポーキー”・ペッカムによるマスタリング(「A PORKY PRIME CUT」のランアウト刻印入り)で、中低域の塊感がすさまじい反面、状態のいい完品(付属のアートプリントや内袋2枚揃い)は中古相場が高騰しています。
現在、新品または手頃な価格でアナログ盤を探すなら、高音質再発レーベルのMusic On Vinylから出た180g重量盤2LP(規格番号:MOVLP330)か、2018年発売の『The Original Memphis Recordings』2枚組LP(Sony Music、規格番号:19075815741)、あるいは2021年のRun Out Groove盤3LPや2026年流通の限定レッド・ヴァイナル盤が現実的な選択肢になります。
幻のメンフィス録音が蘇る、もうひとつの名盤
Primal Scream
Give Out But Don’t Give Up
(The Original Memphis Recordings)
1994年のアルバム制作時に録音された、 オリジナルのメンフィス・セッションを収録。 バンドのルーツに迫る2枚組アナログLP。
※価格・在庫は変動します。最新情報は各販売ページでご確認ください。
音だけでも十分に楽しめますが、なぜグラスゴー出身のボビー・ギレスピーがここまで米国南部のソウルやロックンロールに魂を焦がしたのか、そのルーツまで追いたい人にはこの一冊が次の入口になります。
プライマル・スクリームのフロントマンが綴る自伝
ボビー・ギレスピー自伝 Tenement Kid
ボビー・ギレスピーの生い立ちから音楽との出会いまで。 ロックとともに歩んできた人生を知るための一冊。
※価格・在庫は変動します。最新情報は各販売ページでご確認ください。
【購入前に確認したいポイント:1994年盤と2018年メンフィス盤の選び分け】
・1994年盤『Give Out But Don’t Give Up』が向く人:あなたがラジオやライブで聴いた、あの攻撃的でやかましい「Rocks」の興奮をそのまま求めているなら、必ず1994年盤(赤服の女性が少し引きで写り、白枠のないジャケット、または通常タイトル表記)を選んでください。
・2018年盤『The Original Memphis Recordings』が向く人:すでに1994年盤を聴き込んでいて、トム・ダウドとマッスル・ショールズ勢による生々しい南部ソウルの呼吸や、アンドリュー・イネスの地下室から出た制作過程のジャム音源まで掘り下げたい人には、この2枚組が最高の贈り物になります。
【確認候補②:手元に残すCD・アナログ盤・関連書籍】
・対象商品A:Primal Scream『Give Out But Don’t Give Up』(輸入盤CD/Music On Vinyl 2LP 規格番号:MOVLP330)
・対象商品B:Primal Scream『Give Out But Don’t Give Up: The Original Memphis Recordings』(国内盤2CD 規格番号:SICP-5837〜8/輸入盤2LP 規格番号:19075815741)
・対象商品C:ボビー・ギレスピー著・萩原麻理訳『ボビー・ギレスピー自伝 Tenement Kid』(イースト・プレス、ISBN:978-4-7816-2099-2)
・確認先:Amazonおよび楽天市場での現在の価格・在庫・仕様確認
※価格・在庫・再発状況は記事執筆時点の情報です。同名アルバムでも1994年盤と2018年メンフィス盤で音源が異なりますので、ご購入前に販売ページのタイトル表記と規格番号を必ずご確認ください。
6. よくある質問(FAQ)
最後に、本文では触れきれなかった別バージョン音源やジャケット仕様の謎、演奏・コレクター視点での注意点について、5つのQ&Aで回答します。
Q1. 「Rocks」には1994年盤と2018年メンフィス盤以外にも、公式の別リミックスは存在しますか?
A. はい、ローリング・ストーンズの名プロデューサーとして知られるジミー・ミラーが手がけた「Rocks (Jimmy Miller Remix)」が存在します。
この音源は1994年当時のプロモ盤や、2009年発売の2CD拡大盤(SICP-1893〜4)のボーナス・トラックとして収録されたもので、演奏時間は3分42秒です。1994年アルバム版よりもさらにパーカッションとギターの荒々しさが強調されており、ジミー・ミラーが生前最後に残した貴重な仕事の一つとしても聴く価値があります。
現在サブスクで配信されている『Give Out But Don’t Give Up (Expanded Edition)』のDisc 1後半にも収録されているため、1994年盤・2018年盤と合わせた「第3のバージョン」としてぜひ聴き比べてみてください。
Q2. 『Give Out But Don’t Give Up』に別デザインのジャケットがあるのはなぜですか?
A. 発売国やエディションによって、写真家ウィリアム・エグルストンの作品と、バンド写真や別カットを使った仕様が混在しているためです。
最も有名なのは、米国写真界の巨匠ウィリアム・エグルストンの写真集『Troubled Waters』から引用された「赤い服を着て微笑む女性」のジャケットですが、1994年の米国盤(Sire/Warner Bros.盤 規格番号:9 45538-2)など一部の北米流通盤では、現地レーベルの判断でジャケット写真が変更されて発売された経緯があります。
また、2018年の『The Original Memphis Recordings』では、オリジナル盤の赤い服の女性写真を白枠で囲み、下部にタイトル文字を配したデザインになっているため、通販のサムネイル画像でも白枠の有無を見れば1994年盤と2018年盤を一瞬で判別できます。
Q3. バンドで「Rocks」をギターコピーする場合、通常のレギュラー・チューニングで弾けますか?
A. レギュラー・チューニングでもコード自体は押さえられますが、あの独特の倍音と跳ねるカッティングを出すには「オープンGチューニング」が適しています。
ロバート・ヤングとアンドリュー・イネスは、この曲でキース・リチャーズが得意とする5弦オープンG(6弦を外すかミュートし、5弦からG-D-G-B-Dに合わせる調弦)のアプローチを取り入れています。開放弦を鳴らしながら人差し指と中指をハンマリングすることで、レギュラー調弦では出せないルーズな響きが生まれます。
ギター1本でコピーする場合はオープンGにセットしたテレキャスターやレスポール系を使い、歪ませすぎないクランチ・トーンで右手のアタックを強く弾くと、原曲のブギー感に一気に近づきます。
Q4. 1994年のUKオリジナル2枚組LP(CRELP 146)を中古で買う際、注意すべき点はありますか?
A. 1994年のUKオリジナル盤(CRELP 146)には、プレス工場出荷時から「C面とD面のセンターラベルが逆に貼られている個体」が少なからず存在します。
盤面のラベル表記だけを見て針を落とすと曲順が違って驚くことがありますが、内周部のランアウト(マトリクス刻印)にある「CRELP 146 C1」「CRELP 146 D1」を見れば正しい面が判別でき、再生音自体には問題ありません。
それ以上に重要なのは付属品の有無で、UK初版には11.5インチ四方の光沢アートプリント1枚と、写真・クレジット入りの専用インナー・スリーヴ2枚が付属しているため、通販や店頭で買う際は「インサート完品かどうか」を必ず確認しましょう。
Q5. ライブでの「Rocks」はスタジオ盤とどう違いますか?確かめられる公式作品はありますか?
A. ライブでの「Rocks」はスタジオ盤よりもテンポが速く、ホーンやピアノの装飾を削ぎ落としたパンキッシュなギター・ロックとして演奏されます。
特に2000年の『XTRMNTR』以降、ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)やマニ(ザ・ストーン・ローゼズ)が帯同していた時期のライブでは、60年代ガレージ・パンクやMC5のような獰猛な音圧へと進化しました。
このライブならではの「Rocks」を音源や映像で確かめたい場合は、2003年発売のライブ盤『Live in Japan』や、2011年発売の映像・音源作品『Screamadelica Live』の後半アンコール・パートをチェックするのが一番の近道です。
7. まとめ:最初に聴くべき1枚の結論
プライマル・スクリームの「ロックス(Rocks)」を巡るアルバム選びと音源の違いについて、最後に判断の軸をまとめます。
- 「ロックス」が収録された本来のアルバムは、1994年発売の4作目『Give Out But Don’t Give Up』である
- ラジオやクラブで馴染み深い、スネアと歪んだギターが前に張り出した定番バージョンを聴きたいなら、まずは1994年オリジナル盤から入る
- 1曲目「Jailbird」から2曲目「Rocks」へなだれ込むアルバム冒頭の流れこそ、ベスト盤では味わえない最大の醍醐味である
- 1994年盤を気に入ったあと、トム・ダウドと南部ソウルの名手たちによる本来の隙間のあるグルーヴや制作過程まで知りたくなったら、2018年盤『The Original Memphis Recordings』へ進む
- CDやLPを購入する際は、ジャケットの白枠の有無や規格番号を確認し、1994年盤と2018年盤を取り違えないようにする
『Screamadelica』の革新的なダンス・ビートも素晴らしいですが、理屈抜きでボリュームを上げたくなる『Give Out But Don’t Give Up』のロックンロールには、いつの時代に聴いても心を奮い立たせる熱量があります。
まずは今夜、1994年盤の1曲目から再生ボタンを押して、ボビー・ギレスピーのしゃがれた第一声とギターのブギーに身を委ねてみてください。





