こんにちは、ジェネレーションBのTAKUです。
ジュニア・ウェルズの『フードゥー・マン・ブルース』が名盤だと言われても、昔のブルースに詳しくないと、「渋いだけの作品じゃないのか」「バディ・ガイ目当てで買っても楽しめるのか」と迷いますよね。
しかも調べてみると、オリジナル12曲のLP、ボーナストラック付きCD、26トラックのデラックス版まで出てきます。
どれを選べばいいのか、分かりにくいのも当然です。
先に言うと、このアルバムの価値は古さや受賞歴ではありません。

ジュニア・ウェルズの声とハーモニカ、バディ・ガイの抑えたギター、ジャック・マイヤーズとビリー・ウォーレンの粘るリズムが、狭いクラブの緊張感をスタジオに持ち込んだこと。
そこに尽きます。
初めて聴くなら、まずオリジナルの12曲を曲順どおりに通してください。
気に入ったら未発表演奏や別テイクを含む拡大版へ進む。
この順番なら、本編の完成度を味わいながら、余計な買い直しも減らせます。
先に買い方の結論だけ知りたい方へ。
この記事でわかること
- 『フードゥー・マン・ブルース』が名盤と呼ばれる理由
- ジュニア・ウェルズの歌とハーモニカの聴きどころ
- オリジナル12曲と拡大版の違い
- CDやアナログ盤を買うときの選び方
1. まずオリジナル12曲を聴く
この作品は、好きな曲だけを抜き出しても魅力は伝わります。
ただ、本当のおいしさは、勢いのある前半から夜更けの陰影へ沈み、再びバンドの足取りが太くなる流れにあります。
1-1. 結論は本編から入ること

購入前に試すなら、最初は「Snatch It Back and Hold It」「In the Wee Wee Hours」「Hoodoo Man Blues」「Chitlins Con Carne」の4曲を聴けば、作品の幅はかなりつかめます。
ファンキーな切れ味、遅いブルースの湿り気、呪術的な題名曲、ジャズから借りた曲を自分たちの足取りに変えるセンス。
この4方向が一枚の中で無理なくつながっているんです。
ただし、4曲だけで判断して終わるのは惜しい。
アルバムは寄せ集めのベスト盤ではなく、1965年9月22日と23日のセッションで、当時のバンドが普段ステージで鳴らしていた感覚を長時間作品へ移したものです。
だからこそ、12曲を順番に聴いたとき、店の扉を開けて最後の演奏まで居残ったような感触が残ります。
最初の一枚としての答え
4曲のうち2曲以上に引っかかった方へ。
その場合は、アルバムを一曲ずつ買うより、本編12曲を曲順どおりに聴けるCDを一枚持つほうが、この作品の良さをつかみやすくなります。
1-2. 名盤でも合わない人はいる
正直に言うと、派手なギターソロを最初から最後まで浴びたい人には、やや地味に聞こえるかもしれません。
後年のバディ・ガイのような、音を引き裂く高音や大きな見せ場を期待すると肩透かしがあります。
この盤での彼は、主役を奪うより、歌の後ろへ回って空気を締める場面が多いからです。
また、現代的に低音を厚く積み上げた録音でもありません。
四人の距離が近く、音数が少なく、沈黙まで演奏の一部になる作品です。
豪華な編曲や分厚い重ね録りが好きな人より、ドラムの一打、ベースの一音、歌の入り方で空気が変わる瞬間を楽しめる人に向いています。
2. 作品が生まれた1965年
『フードゥー・マン・ブルース』を名盤たらしめたのは、曲や演奏だけではありません。
シングル中心だったシカゴ・ブルースを、現場のバンドの呼吸を保ったままLPへ収めようとした発想が重要でした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名義 | Junior Wells’ Chicago Blues Band |
| 録音 | 1965年9月22日、23日 |
| 発売 | 1965年11月 |
| レーベル | Delmark Records |
| プロデュース | ボブ・ケスター |
| 編成 | ジュニア・ウェルズ、バディ・ガイ、ジャック・マイヤーズ、ビリー・ウォーレン |
| 本編 | オリジナルLPは全12曲 |
2-1. シングルの制約を外した録音

当時のブルースは、ラジオやジュークボックスで流しやすい短いシングルとして売られることが多く、アルバムも既発シングルをまとめた形が珍しくありませんでした。
ところがデルマークのボブ・ケスターは、ジュニア・ウェルズに選曲と共演者の自由を与え、普段のバンドに近い形で録音させます。
ここで大事なのは、「史上初のブルースLP」と単純化しないことです。
デルマークは本作以前にもブルースのアルバムを出していました。
それでも本作が画期的だったのは、活動中のシカゴ・ブルース・バンドがクラブで組んでいたセットの感触を、シングルの尺に縛られず一枚へ定着させた早い例だった点にあります。
米国議会図書館の全米録音資料登録簿も、本作をシカゴのブルース・クラブの熱気をスタジオで捉えた初期の録音として紹介しています。
権威が選んだから名盤なのではありません。
後から保存対象になった事実が、録音の独自性を裏づけていると受け取るのが自然でしょう。
2-2. 名前を隠したバディ・ガイ
オリジナル盤でギターが「Friendly Chap」と記された話は有名です。バディは友人、ガイは男、という意味を言い換えたしゃれですね。
当時、バディ・ガイはチェス・レコードとの契約上の問題があると考えられ、デルマーク盤に本名を出せないと思われていました。
しかし、名前が隠れても音は隠れません。
「Ships on the Ocean」でボーカルの後ろへ細い線を引くフレーズ、「In the Wee Wee Hours」で音を伸ばしすぎず余韻だけを残す弾き方、そして「Chitlins Con Carne」で跳ねるリズムへ切り込む短い応答。
ここには後年の派手なスターではなく、歌を立たせる伴奏者として抜群にうまい若いバディ・ガイがいます。
◆TAKUのひとこと
3. 名盤になった四人の呼吸
主役はジュニア・ウェルズですが、この作品は四人の力関係でできています。
誰か一人が前へ出続けるのではなく、声、ハーモニカ、ギター、リズム隊が瞬間ごとに重心を渡し合う。
その動きが、生演奏に近い緊張感を生みました。
3-1. 声は叫ぶより近づいてくる

ジュニア・ウェルズの歌は、声量で圧倒するタイプではありません。
語尾を少し濁らせ、息を喉の奥に残し、言葉をビートの真上ではなくわずかに後ろへ置く。
すると、マイクの向こうから歌が飛んでくるのではなく、本人がこちらへ顔を寄せてくるように聞こえます。
「Snatch It Back and Hold It」では、短い声の跳ね方がドラムと噛み合い、歌とリズムの境目がなくなります。
反対に「In the Wee Wee Hours」では、声を張らず、半分ささやくような息の量で夜の重さを作る。
音程の広さではなく、声の表面をどれだけざらつかせるか、どこで息を引くかで曲の温度を変えているんです。
タイトル曲では、言葉の終わりをきれいに閉じません。
声が少し崩れたところへハーモニカが入り、ギターがその背後を擦る。
歌唱と楽器演奏を別々に考えるより、一人の体から声とハーモニカが交互に出ていると捉えたほうが、この人の強さをつかみやすいでしょう。
3-2. ハーモニカが歌の続きを話す
ブルース・ハープというと、鋭い高音で泣き叫ぶ印象が先に立つかもしれません。
ジュニア・ウェルズはもちろん強く吹けますが、本作では音を詰め込まず、歌が言い残した部分だけを楽器に話させます。
「Early in the Morning」の冒頭は、その使い分けが分かりやすい場面です。
ハーモニカが曲の入口を作り、歌が始まると後ろへ下がり、また声の切れ目で前へ出る。
一本の長い独奏ではなく、短い返答を積み重ねて場面を動かしていきます。
息を吸って鳴らす音には、押し出す音とは違う引力があります。
その引き込む感覚がジュニアの少し後ろ乗りの歌と重なるため、テンポが遅い曲でも演奏が止まりません。
速さではなく、次の音を待たせる力で聴き手を離さない。これが本作のハーモニカです。
3-3. 抑えたギターが空気を締める

バディ・ガイは、ここで自分の名刺代わりの大ソロを連発しません。
コードを短く切る、低い位置で一音だけ押す、ボーカルの語尾へ細いフレーズを差す。
そうした小さな動きで曲の輪郭を作っています。
「Hound Dog」ではバディ自身が歌い、ギターも担当しますが、エルヴィス・プレスリー版のような大きなロックンロールへ寄せず、ビートを低く保ちます。
原曲を有名曲として飾るより、バンドのグルーヴへ引き戻す演奏です。
また、セッションの一部ではギターアンプの不調から、スタジオのハモンド・オルガン用レスリー・スピーカーを経由して録音されたと伝えられています。
だからといって、機材の珍しさだけで音を決めつける必要はありません。
大切なのは、少し揺れるような響きさえ、四人の暗い空気に溶け込ませたことです。
3-4. ベースとドラムが粘りを作る

ジャック・マイヤーズのベースとビリー・ウォーレンのドラムは、目立たないからこそ強い。
「Snatch It Back and Hold It」ではベースが短い型を反復し、ドラムが強く叩きすぎずに前進させます。
四人編成なのに薄く感じないのは、低音を量で埋めず、音の置き場所を揃えているからです。
「In the Wee Wee Hours」ではテンポを支えるだけでなく、曲を沈ませる役目を担います。
シンバルの余韻が消えるまで待ち、ベースが次の足場を作る。
その間に声とギターが漂うので、遅い演奏でも緊張が途切れません。
録音が生々しく聞こえる理由を、ノイズや古い機材だけに求めると本質を外します。
四人が同じ速さで演奏するのではなく、同じ呼吸で少しずつ押したり引いたりしている。
そこが生々しさの正体です。
4. オリジナル全12曲の聴き方
全曲を同じ重さで細かく分析するより、曲順の役割をつかむほうが、このアルバムは面白くなります。
前半はバンドの顔を見せ、後半は暗さ、器用さ、ジャズ感覚まで広げていく構成です。
| 曲 | 最初に聴くポイント |
|---|---|
| Snatch It Back and Hold It | 声とリズムが一体になる切れ味 |
| Ships on the Ocean | 歌の隙間へ入る細いギター |
| Good Morning Schoolgirl | 古い定番曲を自分の間へ変える歌 |
| Hound Dog | バディ・ガイの歌と低く抑えた演奏 |
| In the Wee Wee Hours | 夜更けを作る声量とシンバルの余韻 |
| Hey Lawdy Mama | 後のロックにも渡るリフと弾み |
| Hoodoo Man Blues | 声、ハーモニカ、ギターの不穏な応答 |
| Early in the Morning | ハーモニカが歌を導く流れ |
| We’re Ready | 歌なしで見える四人の足並み |
| You Don’t Love Me, Baby | 反復を単調にしない強弱 |
| Chitlins Con Carne | ジャズ曲を泥臭く変えるギター |
| Yonder Wall | 最後に残るクラブ演奏の勢い |
4-1. 前半は速さと夜の対比
一曲目の「Snatch It Back and Hold It」は、名刺代わりとして完璧です。
イントロから四人が同じ場所へ踏み込み、歌が短く跳ね、ハーモニカが一気に温度を上げる。
ブルースを遅くて重い音楽だと思っている人ほど、ここで印象を変えられるでしょう。
「Ships on the Ocean」と「Good Morning Schoolgirl」では、勢いだけではない歌の間が見えてきます。
特に後者は古くから歌い継がれた曲ですが、ジュニアは博物館の展示物のようには扱いません。
声をビートへ食い込ませ、当時のクラブで通じる生々しい演目に変えています。
「Hound Dog」で別の声色を挟み、「In the Wee Wee Hours」で照明を落とすように速度と音量を下げる。
この並びがうまいんです。五曲目まで来ると、アルバムを聴いているというより、店の中でバンドの表情が変わるのを見ている気分になります。
前半を締める「Hey Lawdy Mama」は、ブルースとロックの境目を意識させます。
のちにクリームへ受け継がれ、別の形へ変わっていく曲ですが、ここではまだシカゴの床を踏むような低い重心です。
ロック版から逆に戻って聴くと、リフが生まれた場所の湿度が分かります。
4-2. 後半は不穏さと器用さ
LPならB面の入口に当たる「Hoodoo Man Blues」は、題名の重さに反して短い曲です。
しかし、その短さがいい。
説明を加えすぎず、ジュニアの声とハーモニカ、バディの揺れるギターが、不穏な気配だけを残して去ります。
「Early in the Morning」は、本作でジュニアの歌とハーモニカの両方を味わうなら外せません。
長めの尺を使い、声が沈んだあとに楽器が強く前へ出る。
短いシングルでは削られやすかった時間が、ここでは曲の説得力に変わっています。
インストゥルメンタルの「We’re Ready」と「Chitlins Con Carne」では、歌がなくてもバンドが成立することを示します。
後者はケニー・バレルのジャズ・ブルースですが、原曲の洗練をそのまま真似せず、ギターの角とリズムの粘りを強めています。
ジャズとブルースを別の棚に分けて考えている人には、この行き来が面白いはずです。
最後の「Yonder Wall」は、きれいに幕を閉じる曲ではありません。
まだ演奏が続きそうな勢いを残し、聴き手を店の外へ放り出す。
その終わり方が、アルバム全体のライブ感を守っています。
5. ロック好きに刺さる名盤

『フードゥー・マン・ブルース』はブルースの教科書として聴くより、ロックンロールの身体がどこから来たのかを確かめる作品として聴くと、急に近くなります。
5-1. 歪みより間がロックを生む
ロックらしさを大音量や強い歪みだけで考えると、この盤はおとなしく感じるでしょう。
しかし、演奏の核にはロックと同じ反抗的な身振りがあります。
決められたところへ音を置きすぎず、歌が少し遅れ、ギターが横から噛みつき、リズム隊が前へ押す。
整いすぎないまま、四人が一つの方向へ進む力です。
ローリング・ストーンズ、アニマルズ、ヤードバーズなどを通してシカゴ・ブルースに近づいた人なら、聞き覚えのある語法がいくつも見つかります。
ただし、このアルバムが彼ら全員へ直接影響したと短絡する必要はありません。
彼らが夢中になった音楽文化と同じ地面が、加工の少ない形で鳴っている。そう考えるだけで十分です。
シカゴ・ブルースがロックへ与えた大きな流れは、マディ・ウォーターズがなぜ偉大なのかを解説した記事でも詳しく書いています。
本作の四人編成がどこから来たのか知ると、音の系譜がさらに見えやすくなります。

5-2. 戦前とロックの中間にある
本作には、ソニー・ボーイ・ウィリアムソンI世など先行世代の曲や、ビッグ・ママ・ソーントンで知られる「Hound Dog」、ケニー・バレルの「Chitlins Con Carne」が同居しています。
つまり、過去を守るだけの作品ではなく、戦前ブルース、R&B、ジャズ、当時のファンク感覚を、現役バンドのレパートリーとして混ぜた一枚なんです。
戦前から戦後へ曲がどう渡ったのかを先に知りたいなら、『RCAブルースの古典』を聴くためのガイドも役立ちます。

「Good Morning Schoolgirl」などの原型をたどってから本作へ戻ると、ジュニアが古い曲の息遣いをどれだけ自分の時代へ引き寄せたかが分かるでしょう。
6. 通常版と拡大版の違い

購入時に最も迷うのが版の違いです。
ここでは「高い版ほど上」と考えず、何を聴きたいかで選びます。
なお、リイシューは再発売全体、リマスターは既存ミックスの最終音質を調整し直す作業、拡大版は追加音源を加えた仕様です。
同じ意味ではありません。
| 版 | 主な内容 | 向いている人 |
|---|---|---|
| オリジナル仕様 | 本編12曲 | 完成された曲順だけを味わいたい人 |
| 1991年系のボーナス版 | 本編を含む14トラック | 手軽さと追加要素を両立したい人 |
| 2011年拡大版 | 表示上26トラック | 別テイクと録音過程まで聴きたい人 |
| アナログ再発 | 主に本編12曲 | 面を返しながら曲順を味わいたい人 |
| 45回転2枚組 | 本編を複数面へ分割 | 再生環境があり音の違いを追いたい人 |
6-1. 拡大版は演奏が19曲ある
2011年の拡大版は26トラックと表示されます。
ただし、音楽が26曲入っているわけではありません。
オリジナル12曲に「I Ain’t Stranded」、別テイク6曲を加えた音楽演奏が計19曲で、その間に短いスタジオ会話が7トラック入る構成です。
この違いを知らずに「26曲だから倍以上お得」と考えると、少し違います。
価値は曲数ではなく、同じ曲を四人がどう作り替えたかを比べられること。
「In the Wee Wee Hours」の別テイクでは、テンポ感や声の熱の入れ方が本編と違い、完成版が唯一の正解ではなかったと分かります。
「Yonder Wall」は複数の別テイクが残り、バンドが同じ骨格の中で勢い、間、終わり方を変える様子まで追えます。
これは初めて聴く人向けというより、オリジナル12曲を好きになった人のための二周目。
本編が映画なら、拡大版は編集前のフィルムと現場の会話まで見せる資料です。
6-2. 初めて買うならCDが堅い
私は、初めて所有する一枚なら通常CDか拡大CDをすすめます。
再生が安定し、盤面の状態を神経質に確認する必要がなく、本編の曲順も守れるからです。
価格差が小さければ拡大版、まず安く入るなら通常版で十分でしょう。
2026年8月の確認時点では、デルマーク公式の商品ページにCD、デラックスCD、LPの選択肢が掲載されています。
また、Apple Music日本版には14曲、45分のボーナストラック版が掲載されています。
配信で試聴してからCDやLPを選ぶ順番が、いちばん無駄がありません。
ただし、サブスクリプションの配信地域、収録版、販売店の在庫、価格は変動します。
この記事執筆時点の情報なので、購入前に公式サイトと販売ページで最新の収録曲、規格番号、再生形式を確認してください。
一枚だけ買うなら、この国内盤デラックスCDです。
本編から追加音源まで、一枚で深く味わえる国内盤デラックス版
ジュニア・ウェルズ『フードゥー・マン・ブルース[デラックス・エディション]』国内盤CD
オリジナル・アルバムに別テイクや追加音源を収録したデラックス・エディションです。まず本編を聴き、気に入ったら追加音源まで楽しみたい方に向いています。
※価格・在庫は変動します。最新情報は各販売ページでご確認ください。
日本語の資料まで読み込みたい方へ。
スタジオ会話と英文解説の全訳、歌詞、日本語解説を重視する場合は、旧国内盤の新装拡大版「PCD-93449」も候補です。
6-3. アナログ盤は仕様を確認する
アナログ盤で聴く魅力は、A面とB面の切れ目が作品の構造として見えることです。
前半の最後に「Hey Lawdy Mama」、後半の最初に「Hoodoo Man Blues」が置かれるため、盤を返す動作が店の空気を切り替えるように働きます。
一方で、中古市場には初期のモノ盤とステレオ盤、その後の再プレス、各年代の再発盤が混在します。
ジャケットが似ていても同じ版とは限りません。
発売国、規格番号、ラベル、ランアウト刻印、盤面とジャケットの状態を分けて確認しましょう。
45回転2枚組の再発は、同じ直径なら線速度を確保しやすい利点がありますが、曲の途中で音が良くなる魔法ではありません。
マスタリング、カッティング、プレス、再生装置の総和で音は決まります。
曲数を複数面へ分けるため盤を返す回数も増えるので、クラブの一続きの流れを重視する人には通常LPのほうが合う場合もあります。
中古購入で避けたい失敗
CDで気に入った人の二枚目として。
A面最後の「Hey Lawdy Mama」から、盤を返して題名曲へ入る流れを身体で味わいたいなら、アナログ盤を選ぶ意味があります。
ただし、最初から高額な45回転2枚組を選ぶ必要はありません。
まずは通常の新品再発LPを基準に、回転数、枚数、規格番号を確認してください。
名盤の完成された流れを、アナログならではの手触りで
Junior Wells ジュニア・ウェルズ/Hoodoo Man Blues(アナログレコード)【LP】
オリジナルの曲順と、A面・B面の空気の切り替わりを楽しみたい方に適した通常LPです。ジャケットを手元に置き、盤を返す時間まで含めて名盤をじっくり味わえます。
※価格・在庫は変動します。最新情報は各販売ページでご確認ください。
※「Delmark 612」だけでは版を特定できません。33⅓回転1枚組か45回転2枚組か、発売国、規格番号、新品・中古、送料を購入前に確認してください。
7. 聴く順番と買い方の答え
ここまでの内容を、実際の行動に落とします。
迷ったときは、次の三段階で十分です。
7-1. 四曲試してから通して聴く
まず配信で「Snatch It Back and Hold It」「In the Wee Wee Hours」「Hoodoo Man Blues」「Chitlins Con Carne」を聴く。
四曲のうち二曲以上に引っかかったら、本編12曲を曲順どおりに通してください。
速い曲だけ、遅い曲だけで判断しないことが大切です。
次に、ジュニアの声とハーモニカを中心にもう一度聴き、三周目でバディのギターとリズム隊を追います。
一度に全部を聞き分けようとしなくて構いません。
音数の少ない録音ほど、注目する相手を変えるだけで別の作品に聞こえてきます。
7-2. 気に入ったら拡大版へ進む
本編を好きになったら、2011年拡大版の別テイクへ進みましょう。
特に「In the Wee Wee Hours」「Hoodoo Man Blues」「Chitlins Con Carne」「Yonder Wall」の比較は、バンドの柔軟さが分かりやすい部分です。
ただ、最初からスタジオ会話と別テイクを挟んで26トラックを通すと、本編の曲順が持つ集中力を見失う可能性があります。
拡大版を買っても、初回は1曲目から12曲目までで一度止める。
それから追加音源へ入る聴き方がおすすめです。
私のおすすめ
買い直しを避けたいなら、最初から本編と追加音源が入った一枚を。
私なら国内盤デラックスCDを選び、最初は1〜12曲だけで止めます。そこで作品が残ったら、未発表曲と別テイクへ進む。この聴き方なら、オリジナルLPの流れを崩さず、あとから別のCDを買い直す必要もありません。
8. この名盤に関するよくある質問
最後に、配信、収録曲、版選びで迷いやすい点へ短く答えます。
購入前の確認に使ってください。
Q1. なぜ『フードゥー・マン・ブルース』は名盤なのですか?
A. シカゴの現役バンドがクラブで鳴らしていた呼吸を、LP一枚の流れとして捉えたからです。ジュニア・ウェルズの歌とハーモニカだけでなく、バディ・ガイが音数を抑え、ベースとドラムが粘ることで、狭い場所の緊張感まで聞こえます。
Q2. バディ・ガイのアルバムとしても楽しめますか?
A. 楽しめます。ただし、後年の派手なソロを期待するより、歌を支える伴奏力を聴く作品です。「Ships on the Ocean」「In the Wee Wee Hours」「Chitlins Con Carne」で、短いフレーズと沈黙の使い方に注目してください。
Q3. 通常版と2011年拡大版はどちらがおすすめですか?
A. 価格差が大きくなければ拡大版がおすすめです。ただし、初回はオリジナル本編の12曲で止め、あとから追加音源を聴いてください。完成版と別テイクを混ぜずに聴くほうが、作品本来の流れをつかみやすいですよ。
Q4. CDとアナログ盤はどちらを買うべきですか?
A. 初めてならCDが堅実です。安定して再生でき、拡大版なら別テイクも楽しめます。アナログ盤はA面とB面の構成を身体で味わえる反面、版と状態の確認が必要です。本作を気に入ってから二枚目として選ぶと失敗が減ります。
Q5. サブスクだけでも十分に楽しめますか?
A. まず作品を知るには十分です。配信で本編を通して聴き、手元に残したくなったらCDやLPを選べば無駄がありません。ただし、サービスごとに通常版と拡大版の表示が違うことがあるため、曲数と曲順を確認してください。
9. 熱は四人の間に残っている

ジュニア・ウェルズの『フードゥー・マン・ブルース』は、古典だから我慢して聴くアルバムではありません。
一曲目が始まった瞬間に、声とリズムが身体を前へ押し、「In the Wee Wee Hours」で照明を落とし、題名曲で不穏な影を残す。
四人しかいないのに、場面が次々と変わります。
名盤の理由は、ジュニア一人の名人芸でも、バディ・ガイの若さでもありません。
歌が引けばギターが出る。ギターが止まればハーモニカが息を吸う。
その下でベースとドラムが、床を動かさずに空気だけを揺らす。
四人が互いの場所を奪わず、それでも一歩も引かない。
その緊張感こそ、この録音が今も古びない理由です。
最初はオリジナル12曲を通しで。次に2011年の拡大版で別テイクへ。
アナログ盤は、その音が自分の生活に残ると確信してからでいいでしょう。
ロックが好きなあなたなら、この一枚の中に、歪みや大音量より前から存在していたロックンロールの身振りをきっと見つけられるはずです。




