こんにちは。ジェネレーションB、運営者の「TAKU」です。
1977年、ロンドンの路上で爆発したパンクムーブメント。
その中心にいたザ・クラッシュのレコードを掘っていると、必ずぶつかる壁がありますよね。
「『白い暴動』と『動乱』、どっちを買えばいいの?」「同じファーストアルバムなのに収録曲が違うのはなぜ?」といった疑問です。
特に日本盤は、帯の有無や独自すぎる邦題のせいで情報が錯綜しがちです。
私自身、中古レコード屋で謎のタイトル『パール・ハーバー ’79』を見つけて混乱した経験があります。
この記事では、当時の日本のレコード会社がいかにしてこの「反逆の音楽」をパッケージングし、私たちに届けようとしたのか、その熱気と工夫を深掘りします。
コレクター視点でのデータも整理しましたので、あなたのレコード選びの参考になれば嬉しいです。
この記事でわかること
- 『白い暴動』日本盤とUS盤における収録曲の決定的な違いと歴史的背景
- 名盤『動乱』の邦題やプロデュースに込められた意図と当時の評価
- コレクター必見の『パール・ハーバー ’79』などレア盤の識別ポイント
- 「White Riot」などの楽曲背景にある社会的メッセージと「ロック・アゲインスト・レイシズム」
1. ザ・クラッシュ『白い暴動』と『動乱』の日本盤が持つ独自性
ここでは、ザ・クラッシュの初期キャリアを語る上で避けては通れないデビュー作『白い暴動』と、それに続くセカンドアルバム『動乱』について、特に日本盤(国内盤)ならではの仕様やリリースの背景にフォーカスして解説します。
なぜ同じアルバムなのに国によって中身が違うのか、その複雑な事情を整理していきましょう。
1-1. デビュー作『白い暴動』の収録曲とUKオリジナル盤の衝撃
1977年4月8日、CBSスタジオ3にてわずか3週間、製作費4,000ポンドという低予算で録音され、英国でリリースされた記念すべきデビュー・アルバム『The Clash』。
日本では『白い暴動』という邦題で知られていますね。
この日本盤(規格番号:25-3P-67)の最も特筆すべき点は、基本的にUKオリジナル盤の曲順をそのまま採用しているという事実にあります。
これは当たり前のようでいて、当時の洋楽市場においては非常に重要な意味を持っていました。
実は、1979年にリリースされたUS盤(アメリカ盤)は、曲順がバラバラに変更されているうえに、収録曲も大きく差し替えられています。
「Deny」「Cheat」「Protex Blue」「48 Hours」といった、パンクの初期衝動あふれる荒々しいナンバーが、US盤では「ラジオ向けではない」という判断などからバッサリ削除されているのです。
代わりに、後のシングル曲などが追加され、実質的な編集盤(コンピレーション)のような構成になってしまいました。
対して日本盤は、バンドが1977年当時に提示した「アルバムとしての構成美」や、ロンドンの湿った空気感を忠実に伝えてくれる、資料的価値の極めて高いフォーマットと言えます。
パンク・ムーブメントの熱狂をリアルタイムで真空パックしたこのUK準拠の日本盤こそ、ザ・クラッシュの真髄を知るための「正典」と呼ぶにふさわしいでしょう。
| 曲順 | 日本盤 (25-3P-67) / UK盤 | US盤 (1979) | 備考 |
|---|---|---|---|
| A1 | Janie Jones | Clash City Rockers | 日本盤はオリジナル通りの開幕 |
| A4 | White Riot (白い暴動) | Complete Control | 日本盤はデモVer.収録 |
| A7 | Deny (否定) | London’s Burning | US盤未収録 |
| B2 | Cheat (ペテン) | Career Opportunities | US盤未収録 |
| B3 | Protex Blue | What’s My Name | US盤未収録 |
| B5 | 48 Hours | Police & Thieves | US盤未収録 |
ちなみに、US盤は「I Fought the Law」などのシングル曲が追加されており、ベスト盤的な側面が強いのが特徴です。
どちらが良い悪いではなく、別物として楽しむのが正解ですね。
しかし、オリジナルの焦燥感を味わうなら断然日本盤(UK仕様)です。
(出典:Official Charts Company『The Clash Official Charts History』)
1-2. 名曲「White Riot」の歌詞が問いかける真の意味
アルバムタイトルにもなった楽曲「White Riot(白い暴動)」。
このタイトルだけを現代の感覚で見ると、白人至上主義的な暴動を扇動する危険な歌だと誤解してしまう人もいるかもしれません。
しかし、その真意は全くの逆であり、むしろ当時の人種差別撤廃運動の中核をなすメッセージソングでした。
この曲は、ジョー・ストラマーとポール・シムノンが1976年のノッティング・ヒル・カーニバルで発生した暴動に参加した際の実体験に基づいています。
当時のロンドンでは、カリブ系移民に対する警察の不当な扱い(スサ法による検問など)への反発が高まっており、黒人コミュニティは団結して権力に立ち向かっていました。
ストラマーはその姿に衝撃を受け、一方で、自分たち白人の若者が現状に甘んじ、無気力で、明確な目的もなくただ流されていることに対して強烈な苛立ちを感じたのです。
サビの「White riot, I wanna riot / White riot, a riot of my own(白い暴動、俺も暴れたい/自分自身の暴動を)」という歌詞は、「黒人たちのように、俺たち白人も自分たちの戦う理由を見つけて立ち上がろう」という、無気力な若者たちへの強烈な鼓舞です。
ストラマーは、階級社会や抑圧に対して、人種の壁を越えて共に戦う姿勢(連帯)を求めたのです。
この楽曲は、後に当時のイギリスで台頭していた極右政党「国民戦線(National Front)」に対抗する運動「ロック・アゲインスト・レイシズム(RAR)」のアンセムとしても機能し、1978年のビクトリア・パークでの大規模なライブへと繋がっていきました。
1-3. 幻の編集盤『パール・ハーバー ’79』とUS盤の違い
ザ・クラッシュの日本盤ディスコグラフィーにおいて、最も多くの人が混乱するのが、1979年に日本独自企画としてリリースされた『パール・ハーバー ’79(Pearl Harbour ’79)』というアルバムの存在です。
ジャケットを見ると見慣れたメンバーの写真が使われていますが、タイトルは全く異なります。
これ、実は中身は1979年にリリースされたUS盤の『The Clash』そのものなんです。
経緯はこうです。
1979年、アメリカでようやくデビュー・アルバムが(曲順を変更しシングル曲を追加して)リリースされることになった際、日本でもこれに合わせて「USバージョン」のアルバムをリリースする計画が持ち上がりました。
しかし、日本にはすでにUK盤準拠の『白い暴動(25-3P-67)』が1977年から発売されています。
「同じジャケットで中身が違うアルバム」を出すわけにはいきません。
そこで、明確に区別するために『パール・ハーバー ’79』という全く新しい邦題と、独自のジャケットデザイン(または巻き帯)を採用して発売したのです。
タイトルの意味は明白で、バンドがついにアメリカ市場へ「侵攻」することを、歴史的な「真珠湾攻撃」になぞらえたものです。
さらに、この盤(25-3P-139~140)には、ボーナスとして7インチシングル「Gates of the West(西部の門)」と「Groovy Times」が付属しており、まさに「西側(アメリカ)」への進出を強く意識したパッケージとなっていました。
現在では、この日本独自の企画盤は世界中のコレクターから「Ultra-Rare」アイテムとして高額で取引されており、特に完品(巻き帯、7インチ付き)を見つけるのは至難の業となっています。ちなみに私は所持しているので、妻に私が死んだら「◯◯レコード」に持っていくように言ってあります。
1-4. 帯付きレコードが高騰する理由とコレクター市場
私たち日本のレコードコレクターにとっては当たり前の存在である「帯(Obi)」。
しかし、海外のコレクター市場において、この「帯」が付いている日本盤レコードは、”Japanese Pressing with OBI” として特別なステータスを持っています。
彼らは帯のことを「Magic Strip」と呼ぶことさえあり、その希少性に熱狂しているのです。
特にザ・クラッシュの日本盤帯は、キャッチコピーの熱量が凄まじく、デザイン的にもアルバムのアートワークを補完する重要な要素になっています。
『白い暴動』の初期プレスに見られる緑色を基調とした帯や、『動乱』の黒と赤の力強い帯は、単なる広告ツールを超えて、当時の日本の「パンク受容」の歴史そのものを体現しています。
なぜこれほど高騰するのかというと、海外では購入後に帯を捨ててしまう習慣があったことや、そもそも日本国内でしか流通していなかったため、現存数が極めて少ないからです。
日本盤帯付きが高騰する理由
- 希少性: 海外流出や廃棄により、帯が綺麗な状態で残っている個体が年々減少している。
- デザイン性: 独特な日本語フォントや、「監獄ロック」「反逆の」といった煽り文句がクールだと評価されている。
- 独自企画: 『パール・ハーバー ’79』のような、ジャケット全体を包む「巻き帯」仕様は、世界的に見てもユニークなパッケージングである。
1-5. 初回プレスの規格番号やライナーノーツの価値
中古レコードショップやネットオークションで『白い暴動』を探すとき、必ずチェックすべきなのが、背表紙やレーベル面に記載された「規格番号」です。
『白い暴動』の日本盤LPにおける初回プレスの番号は「25-3P-67」です。
この番号を持つ盤は、1977年の発売当時の仕様を色濃く残しており、帯のデザインも緑一色のシンプルなものが基本です。
その後、1979年などに再発された盤では、帯に「Epic Sony」のキャンペーンを示す赤いラインや青いラインが入ったり、規格番号が変更されたりしています。
音質面では、日本盤特有の高品質なビニール素材による「静寂性の高さ」と「分離の良さ」が評価されており、UKオリジナル盤の荒々しさとはまた違った、クリアで聴きやすいパンクサウンドを楽しむことができます。
また、日本盤ならではの大きな楽しみが「ライナーノーツ(解説書)」です。
大貫憲章氏などの著名な音楽評論家による熱い解説や、全曲の歌詞対訳が掲載されています。
インターネットがなかった時代、日本の若者たちはこのライナーノーツを隅々まで読み込み、バンドの政治的背景や歌詞の真意を理解しようと努めました。
それは単なる付属品ではなく、当時のリスナーにとっての「教科書」であり、今となってはパンクムーブメントが日本でどう解釈されたかを知るための第一級の歴史資料なのです。

2. ザ・クラッシュ『動乱』の評価と『白い暴動』からの音響変化
1978年にリリースされたセカンド・アルバム『Give ‘Em Enough Rope』。
日本では『動乱(獣を野に放て)』という、これまた強烈な漢字とサブタイトルを冠した邦題でリリースされました。
パンク純粋主義者からは「アメリカに魂を売った」「音が綺麗になりすぎた」と賛否両論あったこの作品ですが、今改めて聴き直すと、その音楽的な凄みやバンドの進化が痛いほどよく分かります。
2-1. 邦題『獣を野に放て』の由来とジャケットの評価
原題の “Give ‘em enough rope (and they’ll hang themselves)” は、「自由にさせておけば(愚か者は)自滅する」といった意味を持つ英語の慣用句です。
これを直訳せずに『動乱』という重厚な漢字二文字とし、さらにサブタイトルに『獣を野に放て』とつけた日本の担当者のセンスは、ある種凄まじいものがあります。
発売当時は、一部のファンや評論家から「ダサい」「まるで海賊版のタイトルのようだ」といった批判的な声もあったようです。
しかし、アルバム全体に漂うテロリズム、戦争、そして社会不安といったテーマ、さらにはロンドンという狭い檻から世界中へと飛び出していくバンドの勢いを表現するには、これ以上ない言葉選びだったのではないでしょうか。
今となっては、この時代がかった仰々しさこそが、80年代に向かうパンクの「過剰さ」とリンクし、象徴的なカッコよさとして再評価されています。
2-2. プロデューサーのサンディ・パールマンによる音質の賛否
『動乱』のサウンドを決定づけた最大の要因は、アメリカ人プロデューサー、サンディ・パールマン(Sandy Pearlman)の起用です。
彼は「ブルー・オイスター・カルト」などのハードロックやヘヴィメタルバンドを手掛けた人物であり、パンクとは対極にいるような存在でした。
CBSレコードは、アメリカ市場での成功を狙い、よりラジオ・フレンドリーで洗練されたサウンドを求めて彼を送り込んだのです。
当時の批判とパールマンの手法
デビュー作のスカスカで荒削りな音が好きだったパンク・ファンからは、「音がメジャーになりすぎた」「魂を売った(Sell-out)」と激しく批判されました。特にパールマンは、ドラマーのトッパー・ヒードンを「人間ドラムマシン(The Human Drum Machine)」と称賛する一方で、ジョー・ストラマーの声を好まなかったとされ、ボーカルをミックスの奥に埋もれさせ、ドラムを極端に前面に出すミックスを行いました。
しかし、現代のオーディオ的な視点、特に日本盤LPで聴く『動乱』の評価は非常に高いものがあります。「爆音」と形容されるその分厚いプロダクションは、トッパー・ヒードンの正確無比なドラミングと、ミック・ジョーンズの重層的なギターワークを立体的かつ迫力満点に捉えています。パンクというジャンルの枠を超えた「偉大なロック・アルバム」として、もっと正当に評価されるべき作品です。
2-3. 「Safe European Home」に見るジャマイカでの体験
オープニングを飾る「Safe European Home(セイフ・ヨーロピアン・ホーム)」は、ミック・ジョーンズとジョー・ストラマーが曲作りのためにジャマイカへ旅行した際の実体験が元になっています。
彼らはレゲエの聖地での創作を夢見て渡航しましたが、現地で彼らを待っていたのは、想像を絶する貧困と治安の悪さでした。
彼らはホテルから一歩も出られないほどの恐怖を味わい、ミックが送った絵葉書には「怖くてクソ漏らしそうだ(Scared shitless)」と書かれていたという逸話が残っています。
タイトルの「安全なヨーロッパの家」というのは、第三世界へのナイーブな憧れを打ち砕かれ、結局は安全圏であるイギリスに戻って安堵してしまう自分たちへの、強烈な皮肉と自己嫌悪が込められているのです。
楽曲後半のダブ処理的な展開も、彼らが現地で吸収しようとした音楽的要素の表れと言えるでしょう。
2-4. 「English Civil War」が警告する社会的分断
「English Civil War(英国内乱)」は、アメリカ南北戦争時代の有名な歌「ジョニーが凱旋するとき(When Johnny Comes Marching Home)」のメロディを借用し、パンク・ロックにアレンジした楽曲です。
誰でも一度は聴いたことがある、あの勇壮なメロディです。
この曲でストラマーは、当時のイギリスで台頭していた極右政党「国民戦線(NF)」のようなファシズム勢力の脅威を警告しています。
右翼と左翼、移民と排斥派の対立が激化すれば、かつてのピューリタン革命のような「内乱」が再び現代のイギリスで起きるかもしれないという危機感。
邦題の『動乱』というイメージを決定づけた重要な楽曲であり、ジョージ・オーウェルの『動物農場』のアニメーションを用いたシングルジャケットと共に、全体主義への抵抗を示しています。
2-5. ドラム音が特徴的な「Tommy Gun」と楽曲の完成度
アルバムの中でも特に人気が高く、ライブの定番曲でもあった「Tommy Gun(トミー・ガン)」。
この曲のイントロを聴いて、血が騒がないロックファンはいないでしょう。
トッパー・ヒードンのスネアドラムが「ダダダダッ!ダダダダッ!」とマシンガンの連射音のように響き渡り、それに合わせてミックのギターが切り込んでくる展開は圧巻です。
これぞまさに、サンディ・パールマンのプロデュース手腕が光る瞬間であり、トッパーのドラムを最大限に活かしたアレンジと言えます。
歌詞は、テロリストがまるで映画スターのようにメディアで持て囃される現状を皮肉ったもので、攻撃的なサウンドと知的な批評眼が見事に同居しています。
ザ・クラッシュが単なる騒がしいパンクバンドではなく、音楽的にも思想的にも成熟したロックバンドであることを証明する傑作です。
2-6. ザ・クラッシュ『白い暴動』や『動乱』を今聴くべき理由
ザ・クラッシュの初期2作は、単なる過去の遺産ではありません。
『白い暴動』にあるローカルな怒りと初期衝動、『動乱』で見せた世界への視座と音楽的な野心。
そして、それらを日本独自の解釈でパッケージングしたレコードたち。
「白い暴動」や「動乱」というキーワードで検索したあなたが、もしこれからレコードを手に取るなら、ぜひ音源だけでなく、日本盤の帯やライナーノーツにも注目してみてください。
そこには、インターネットがない時代に、海を越えて届いた音楽を全力で受け止め、理解し、伝えようとした人々の熱気がそのまま封じ込められています。
US盤との違いを聴き比べたり、ジャケットデザインの変遷を楽しんだりするのも、レコード収集の醍醐味です。
中古市場では状態の良い日本盤(特に帯付きの『白い暴動』初回盤や『パール・ハーバー ’79』)が年々減ってきており、価格も上昇傾向にあります。
もし店頭で見かけたら、迷わず保護しておくことを強くおすすめします!








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